最近あちこちの技術者コミュニティで、参加者の方とお話しをするとき、毎回このデータの話をしています。
このグラフについては、以前のこんな記事やあんな記事を読んでいただければと思いますが、大まかには「PCについて、とくに不自由なく操作ができるレベル」のスキルを所有している人(レベル3)は、だいたいどこの国を見ても5%前後という内容です(日本は一番割合が多く8%程度ですが、逆に「まったくPCを使えない人の割合も一番多い」)。
さて、上記サイトはUXコンサルティング&リサーチという、ある意味「開発したアプリケーションを他者に提供する」という立場に則って書かれていますが、この調査結果でわかることは、当然それだけではないのだと思います。今回はそれについて書いてみたいと思います。
わたしたちが居る場所
おそらく、Twitterで日々つぶやいていたり、Mastodonにアカウントを持っていたり、ブログや趣味のプログラムを書いたり といったことが出来る人は、まず間違いなくレベル3以上*1だと思います。
TwitterアクティブユーザーやIT関係の勉強会などを見ると、「え、これで8%?」と思うときもあるかもしれませんが、8%です。世の中そんなWebサービスの使い方やIT関係の勉強会なんてものが存在するなんてことを知らない人、ごまんといます(むしろ地域イベントに行くと「そういう人しかいない」)。
そして、「これがスマートフォンの話しになれば、割合激変するんじゃないの?」みたいなコメントをどこかで見かけた気がしますが、そんなことはないでしょう。
それは、レベル2以下の人がこの調査で出題された課題をクリアできなかった理由には操作デバイスがキーボードとマウスか、それともタッチパネルかということはここでは関係ないからです*2。
表題:「自分たち向け」のサービス・ソリューションが(あまり)出てこないわけ
さて、表題の「自分たち向け」のサービス・ソリューションがあまり出てこないわけ。
Twitterなどを見ていると携帯電話会社の新規サービスが酷評を受けていたり、新規発表されたPCの性能に文句がついていたりと、レベル3以上の人たちが首をかしげるようなサービス・ソリューションは世にたくさんあります。それはなぜか。
それは、「自分たちがレベル3以上(日本国内で見れば圧倒的少数派)だから」に他ならない と考えています。
ここからはわたしが見た感想になってしまいますが、
- わたしたちはレベル3以上の人である(日本人口の8%前後)。
- (特に海外の)ネットサービスや、(国内含み)最近のソーシャルゲームなどは、大抵レベル2以上の人を見ている(日本人口の34%前後)。
- (特に国内の)PCメーカーやサービスプロバイダは、大抵レベル1~2くらいの人を見ている(日本人口の46%前後)。
- 国内携帯電話会社(MNO*3 )は、大抵レベル2以下の人を見ている(日本人口の92%前後)。
一昔前は、NetwalkerやIS01など、レベル3以上の人が食いつきそうなデバイスも結構出てきていた認識ですが、少なくとも最近は、このような傾向があるように思います。
理由はいくつか思いつきます。
- それだけでも十分、企業存続に足る利益を得られるから
- Android登場前後にレベル3の人が、その人たち向けのデバイス・サービスを作って失敗したため、その人たちの発言権がなくなった(結果レベル3の人たちが無視されるようになった)
- そもそも社内にレベル2以下の人しかいない(またはレベル3以上の人が意思決定権を持ってない)
わたしもなんとなく感じますが、自分と違うレベルの人を認識するのは、非常に大変なのです。何回も会って、話して、時にはお互いの得意分野の話をして、それでやっとお互いの考え方を理解できる*5。
つまりは結局、レベル3ないし、それ以上の人を見ているのは、同じレベル3の人か、海外ネットサービスか、ソーシャルゲーム界隈の人くらいなもの、それ以外の人はそもそもレベル3の人のことなんか気にしてないか、そもそも存在を知らない。だから自分たち向けのサービスは出てこないのではないのかな と思うのです。
この状況で損をする人
レベル3以上の人たちがこまること。
この状況で損をするのは、まずレベル3以上の人。
表題の通り、(少なくとも国内を見ている限り)自分たち向けのサービス・ソリューションはほとんど出てこないでしょう。PCについても、海外メーカーのもので固めざるをえません。
それで問題ない?まあ、自分でサービスを取捨選択できる大人・すでにある程度スキルのある子なら問題ないのでしょう。
ですが、問題なのは「子どもに素質があるのに、親にPCスキルが全くない」なんていう家庭の子どもです。そういう子は環境を整えることができず、そのスキルを腐らせてしまうことだってある(まあ、そんな家庭からたくさん、プログラミングが得意な子どもが出てきている現状はありますが*6 )。
レベル2以下の人たちがこまること。
そして、レベル2以下の人たちだって損することがあります。
なんだかんだ、Webの仕組みやOSを作っているのは、レベル3以上の人たちです(Googleの様子などを見ていると、「あの人たちはこの世にレベル2以下のコンピュータユーザーなど存在しないと思っているのではないか」と思うときすらあります)。
すると、放っておくとどんどん「自分たちに使いづらいデバイスやサービス」が溢れてくる。もちろん日本国内に閉じて・自分のすぐ手が届く範囲内で活動している限りであればそれでも良いのしょうが、それだけでうまくいかなくなるときはすぐにやって来ます。
そして、それに気付いて勉強してくれるのであればいいのですが、経験上ことITについては、勉強しないで周りの環境を固めてどうにかしようとしてしまう人が多いように感じます(とくに会社経営者など)。
レベル3とそれ以下の間
そしてもうふたつ。
レベル2の人がレベル3以上を目指そうとするときにも困ります。国内にステップアップに繋がるものが無ければ、レベル2の上を目指すのがとても困難になってしまう。
そして、レベル2以下の人とレベル3以上の人が共同作業を行いたい というときにも困ります。この辺のことは、前の記事でも書きましたが。
足並みが揃えられないのです。お互いの歩幅が全くわからないので。
たぶん今後は、それだけでは済まなくなる
ただ、多分今後は、これだけでは済まなくなるのではないでしょうか。
レベル3の人は、インターネットの世界では多数派ですが、それ以外の世界では圧倒的少数派です。だから何かあったときに「自分たちが不利になる方向へ」話が進みやすい。
たとえば法律やデバイス・システムなど、レベル3の人だけを対象にしたものは出しづらくなるのではないでしょうか。
わたしたちが今後、これ以上息苦しくならないように、レベル2以下の人にもレベル3の人の存在や考え方を理解してもらうことは、もはや急務だと思っています。
自分以外のレベルの人を認識するのは、そう簡単ではない。
前述したように、自分以外のレベルの人の考え方や、その存在を理解するのは、そうそう簡単なことではありません。
実際にその人と何度か会って、「自分とは違うレベルの人かもしれない」という認識の上で話して、そしてはじめて理解できるものだと思います*7。
ただ、そのようなレベルの違う人の存在を、考え方を、捉え方を、自分たちも、それ以外のみなさんも、そろそろ理解しないといけない時期になっているのではないか と感じます。
*1:グラフには3までのレベルわけしかないのですが、たとえば「ちゃんと中身を理解した上で」コンピュータプログラミングができるなど、それ以上のスキルレベルを持っている人を区別して、わたしは3以上と呼んでいます
*2:わたしが今までパソコン道場などで相談をうけてきた人などの傾向から考えて、「そもそもツールの全容を理解できるほどの視野を持てていなかった」可能性が高い
*4:図は、サイトの情報を元にそれらしいグラフを作ったものです。正しい値ではありません
*5:最近の携帯電話会社の他業種支援などの取り組みは、レベル3以上の人たちを知ろうとする試みの一環 なのかもしれません
*6:生存バイアスだという可能性もなきにしもあらず
*7:わたしも最近ふらっとパソコン道場や、その他まちづくりエージェント SIDE BEACH CITY.などの事業で多くの人と話していて、ようやくなんとなく理解できるようになってきたところです