高見知英のかいはつにっし(β)

高見知英のアプリケーション開発日誌 のほか、地域活動などの活動報告ブログ。

ITとの距離感を考え直す

どうもTwitterの方が騒がしいな と思ったらこんなことがあったようで。

note.com

ざっくり書くと、厚生労働省の公式でアプリストアに公開されているアプリが、GitHubに公開されているいわゆるオープンソースソフトウェアだった。ただその品質がイマイチで厚生労働省公式というお墨付きを与えられる品質ではないため問題になった、というところでしょうか。

あまり騒ぎの中心を見たことがない(見たくない)のでイマイチ状況が分かっていないのですが、とりあえず(主に中心開発者の方が)結構いろんな批判を受けているようで。

まあ、「納期設定がある依頼をOSSコミュニティに投げている」という時点でいろいろおかしいんじゃないか?などいろいろ思うところはあるのですが、とりあえず思ったことは、OSSっていうものがそもそも伝わってないなあ」というところと「他者と話すということに慣れていない人が多いなあ」ということ。

OSSというものがなんなのか伝わってない

まずOSSについて。

詳しい説明は恐らくはてなキーワードなどによる解説が出てくるのでそちらに任せるとして、地域の方々にも割と身近なOSSといえば、AndroidWordPressなどといったプロダクトがあると思っています。

「Web上に配置するソフトウェアである時点でWordPressは身近じゃないだろ」というツッコミもありそうですが、地域コミュニティでもWebサイトの一つや二つくらいは持っている現在、WordPressは結構地域の人にも身近なOSSです。

とくにWordPressはその有名さもあって、レンタルサーバによっては自動インストールサービスがついていることもありますので、あまり知識のない人でも簡単にセットアップできる。

わたしが関わっているふらっとステーション・とつかや、まちづくりエージェント SIDE BEACH CITY.の事務所があるさくらWORKS<関内>のサイトもWordPressですね。

その他地域のコミュニティスペースのサイトもWordPressは結構多い。ちゃんとメンテナンスされてるのかどうか怪しい というところもありますが…。

こういうのを見ていると、正直「一般に多くの人が触るものにOSSを使うのは早かったんじゃないかな」などと思います。

OSSというものの特徴と課題の理解

なによりOSSの利点と課題をちゃんと理解している人が少ない。

WordPressなどは「セットアップは簡単でも、運用については定期的なメンテナンスなどの知識が必要」なのですが、これを分かっておらず、メンテナンスができていない なんてサイトが結構ある。

セットアップした当初のバージョン(たしか3.x)のまま使っている なんて人もいたりして。逆に2019年(当時)になってもこのバージョンで動くんだ と、ちょっとびっくりしたものです。

Androidやその辺のプロダクトについても、「OSSだから○○」「OSSは△△」とかいう話しを、テレビや非技術系のメディアが書いていたりすると、「それはOSSだからじゃないんだよ」と思うことが多々ありました。

これが今回の騒動をみていて思ったことの一つ。

他者と話すということ

そしてもう一つは、「他者と話すということに慣れていない人が多いなあ」ということ。

ここで言う他者とは「自分と違う文化・価値観の下に生活をしている人」のこと。

単一の文化圏でしか生活していない人は、他の文化・価値観を理解できず、相手にとって悪い印象を与える態度をとったり、発言をしてしまうことがある。

よかれと思ってやったことにより相手を傷つけたり、周りの人に奇異に見られてしまったりする。

今回の件が起こったこと以上に話題になっているのも、それがあるのかなあ と。

simplearchitect.hatenablog.com

アメリカではそのようなことはないとのことですが、そうだとしたら「隣人が外国人というのが当たり前で、単一の文化圏で生活をすること自体が困難」ということなんじゃないかなあと。

日本はなんだかんだ単一国籍が多い国なので、(少なくとも自分の領域から出なければ)他の文化圏と触れることなく生活ができることが多い。

学校はわかりませんが、会社に入るとある程度同じような文化圏の人が集まりますし、誰もその状況に問題を提起することがないので、ここでいう「他者」と話さずに生活できてしまう。

そんな人が今までは多かったから というのはあるのかな と思っています。

SNSの普及により、他者と話さないわけにはいかなくなった

しかしSNS――とくにTwitterの普及により、ここでいう「他者」と話さずに生活することは難しくなりました。

もちろん鍵アカウントにしてフォローを承認制にするとか、フォロー外の人からのリプライを無視する・できなくするとか、いくらでも他者との関わりを断つ使い方はできるのですが、それをしていない という人も多いと思います。

ただそうすると、現実では「自分の生活圏の外にあるコミュニティスペースに行く」とか、「自分になんらかの変化があって生活圏が変わる」とかでもしない限りそうそう起こりえなかった「他者と話す機会」が生まれる。

その結果、すれ違いが生まれてしまう。

今回のような問題を見て、わたしたちは何をしたら良いのか

今回のようなトラブルを見て、わたしたちはどうすればいいのか。

とにかく、多くの人と話す機会を作ることだと思います。

ITコミュニティの人なら、他の地域コミュニティとか、地域コミュニティの人なら、ITやその他、昔からオンラインでの活動を行っていたコミュニティとか。

とにかくいままで自分が関わっていた人たちとは違う文化・価値観を持っている人と話す機会を作ること。

他人を知ること、自分を知らせること。多くの人に「これだけ自分と文化や価値観が違う人が居るんだ」ということを知ってもらうこと。

そういうのがいま必要なんだと思います。

自分たちにできる貢献

多くの人が努力した成果がリリースしていただいたので、我々にできる「小さな貢献」を考えてみませんか?

批判の文化が日本を技術後進国にしているかもしれないという話 - メソッド屋のブログ

もちろん開発になんらかの形で関わるとか、ユーザーになってフィードバックを挙げるとか、そういうのも直接的で分かりやすい貢献だと思います。

しかし、そのようなツールが存在できる空気感、今回のようなソフトウェアの問題が正しく批判されるようになる土壌をつくっていくのも、間接的ではあるものの貢献ではないかなと。

貢献というと割と目に見える直接的な貢献ばっかりが取り沙汰されがちですし、実際いろんなコミュニティに顔を出していても直接的なことばかりフォーカスしている人も多いのですが、だからこそ、逆に間接的に貢献していくことも重要だと思う。

このようなトラブルがまた起こらないようにするために、このようなトラブルを自分が起こさないようにするために、自分を含み、人々の常識を更新していくこと。

地域に気軽に関われるチャンス

さいわい今だと、多くのコミュニティがオンラインで活動を行っている(まあ、状況的にはそれしかないんですが)。

地域の子育てコミュニティも、区民センターも、多くの場所がオンラインでのイベントを行っている。

今、地域のコミュニティスペースは、まだオンラインでの活動を模索している状態。

今後もう少しすると、有償化できる団体はイベントを有償化していくことになりますし*1、ひょっとしたら「オンラインイベントはもういいや」と思ってしまう団体も出てくる。

そうしたら、ITコミュニティの人たちが関われる可能性は、グッと減ってしまう。

失敗に寛容な世の中、OSSを理解できる世の中を作っていく

だからこそ、多分今が地域に関わる、またとないチャンスなのではないかなと。

だからこういう機会に、そのようなイベントに参加してみる。参加して、他の人と話してみる。おたがい「こんな人が世の中にいるんだぞ」ということを知る。

そういうのの積み重ねが、失敗に寛容な世の中、OSSを理解できる世の中に繋がっていく とわたしは思っています。

アメリカでそれが自然とできていったのであれば、日本では明示的にそれを作っていくことはできると思っています。

直接的な貢献も必要だけど

もちろん今は目の前の課題に向き合うことも必要です。たぶんそれが今は、この接触確認アプリの改善だったりするのでしょう。

ただ、それと異種コミュニティと関わっていくことが同時にできないか というと、そういうわけではないと思う。

もちろん一人でできることには限界があるので無理にとは言えませんが、関われる人は「自分と異なる文化・価値観を持っている人と、おたがい話すことから」はじめてみるのもいいのではないかと思います。

*1:有償化が悪いことでは決してないですが、少なくとも全く興味を持ってない人が関わるきっかけにはならなくなってしまいますよね