今回のSBCast.は、東京を拠点に市民による調査研究や講座を展開されている「市民科学研究室」の代表理事、上田昌文さんにお話を伺いました。
大学で生物学を専攻していた上田さんが、なぜ市民活動の道を選び、20年以上にわたって「市民科学」を追求し続けているのか。その根底にある思いや、現代社会における技術との向き合い方について、じっくりとお聞きしました。
チェルノブイリから始まった「外へ出る」という選択
上田さんが活動を始めるきっかけとなったのは、学生時代に遭遇したチェルノブイリ原発事故だったそうです。生物学者を目指していた上田さんは、巨大な影響を及ぼすこの事故を目の当たりにし、「大学の中にいるだけではいけない」と直感したといいます。
そこから市民活動に関わり、自ら学んだことを周りに伝える勉強会をスタート。それが徐々に「自分たちで調べてみよう」という調査研究の形へと進化し、2005年のNPO法人化へとつながっていきました。
専門家に任せきりにするのではなく、市民自身が主体となって科学技術の問題に向き合う。その姿勢は、設立当初から一貫しています。
市民が「調べる」ことの意義と楽しさ
市民科学研究室では、現在も複数の研究会が動いています。例えば、道路の陥没事故といったインフラの問題など、生活に直結するシビアな課題に対しても、住民自身がデータを集め、調査研究を行っています。
「専門的なことは大人になってから勉強するのは大変そう」と感じるかもしれません。しかし上田さんは、自分の解決したい課題にターゲットを絞って学ぶことは、実はとても楽しく、世界が広がる経験なのだと語ります。
最近では、岩波新書『自分で調べる技術』の執筆や、それに基づいたワークショップも開催されています。大学生の論文執筆サポートから、図書館司書の方々とのAI活用に関する議論まで、その活動の幅は非常に多岐にわたっています。
「生活者」としての自立と技術への目配り
番組の中で特に印象的だったのは、「自立した市民」という言葉です。上田さんは、科学技術の問題だけでなく、食やエネルギーといった生活の基本を自分の手に取り戻すことの大切さを強調されていました。
例えば、子ども向けの「料理科学教室」。自分で料理ができるようになることは、食材や健康、ひいては環境への意識を高めることにつながります。頭でっかちな知識ではなく、自分の手で扱える領域を広げていくこと。それが、一極集中や地方の衰退といった社会課題に対する、一つの処方箋になるのではないかというお話でした。
さて、私たちは普段、スマートフォンやインターネット、そして目に見えないインフラ技術に囲まれて暮らしています。それらを「専門家がやってくれているから大丈夫」とブラックボックス化せず、少しだけ「目配り」をしてみる。気になることがあれば、ほったらかしにせず深追いしてみる。そんな小さな一歩が、より良い世界を作るきっかけになるのかもしれません。
一人で調べるのが難しいときは、市民科学研究室のような場所を覗いてみるのも一つの手です。オンラインでの活動も活発ですので、興味のある方はぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
詳細は、ぜひLISTENでの配信をお聞きください。